食道の機能
食道はのど(咽頭)と胃を結ぶ筒状の臓器です。食道自体には消化や吸収の機能はなく口から入った食べ物や飲み物を蠕動運動により胃まで運びます。また、食道と胃の境には下部括約筋があり、胃の内容が食道に逆流しないようにしています。
食道がんの発生と進行
食道がんは食道粘膜から発生し、10数年かけて診断可能な大きさになると言われています。がんの深さ(深達度)が、粘膜内にとどまるがんを早期がん、それより深く進展(浸潤)したものを進行がんと呼びます。
また、がんが非連続性に他部位に進展することを転移といいますが、粘膜下層にがんが達すると血管やリンパ管を介し、転移が始まります。初期にはリンパ節転移から、進展するにつれ肺転移や肝転移などの血行性の転移がおきます。
食道周囲リンパ節までは切除して完全な治癒を見込める効果が高いと考えられます。他臓器転移として肺・肝臓の頻度が高く再発の大きな原因です。
食道がんが進行すると、食道の通り道が狭くなり食物の通過が妨げられ嚥下困難感や悪心、嘔吐などの狭窄症状が出現します。また、がんから出血すると、便が黒くなったり、吐血したり、貧血の症状(立ちくらみやショック)などがでることがあります。
進行程度(進行度 0期~Ⅳb期)
がんの深さ(深達度)(T)、リンパ節転移(N)、他の臓器の転移程度(M)により進行度が決定されます。最終的には原発巣と周囲のリンパ節を顕微鏡でくわしく調べて(病理検査)、後日(術後1~2ヶ月程度)決定されます。
これらの進行度が、完全に治る確率とその後の経過観察や補助化学療法の目安となります。
深達度(食道癌取扱い規約 2015年10月 第11版)
リンパ節転移(食道癌取扱い規約 2015年10月 第11版)
N0: リンパ節転移なし
N1: 1群リンパ節転移
N2: 2群リンパ節転移
N3: 3群リンパ節転移
N4: 4群リンパ節転移
進行度分類(食道癌取扱い規約 2015年10月 第11版)
N0 | N1 | N2 | N3 | N4 | M1 | |
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T1a | 0 | Ⅱ | Ⅱ | Ⅲ | Ⅳa | Ⅳb |
T1b | Ⅰ | Ⅱ | Ⅱ | Ⅲ | ||
T2 | Ⅱ | Ⅱ | Ⅲ | Ⅲ | ||
T3 | Ⅱ | Ⅲ | Ⅲ | Ⅲ | ||
T4a | Ⅲ | Ⅲ | Ⅲ | Ⅲ | ||
T4b | Ⅳa |
当院の治療成績
5年生存率 | |
I-IV期 | 77.5 |
0-I期 | 100 |
II-III期 | 68.2 |
IV期 | ー |
手術に関して
手術は、まずお腹の手術を行います。胃の血流を保ちながら周囲から遊離した後に、胃を細長く形成し(胃管作成)食道の代わりとします。最終的には、その先端を首または胸まで引き上げます。
食道は胸の中にあるので、次に胸の手術をします。右の胸から開けて、右肺をよけて奥にある食道とまわりのリンパ 節を切り取ります。がんが食道の上の方にあっても下の方にあっても、胸の中の食道はほとんどを切り取ります。
がんが食い込んでいる場所やリンパ節をとる目的で他の臓器を合併切除したりすることもあります。
胸の食道を切り取った後は胃を首または胸まで引き上げて残った食道と胃管を繋ぎあわせて、食べ物の通り道を新しく造ります(再建・吻合)。何らかの理由で胃を持ち上げて再建することができない時には大腸や小腸を首まで持ち上げます。
このように胸部食道がんの手術は胸部、腹部、(頸部)の操作が必要となるので手術はとても大きなものとなります。手術時間は約8~12時間が目安ですが、症例によって異なります。
また、食道がんの手術後は口から食事をとることが困難な場合が多いので、多くの症例では、手術時に小腸に、栄養チューブを留置し、手術後早期から、口からの食事摂取がある程度出来るようになるまで、チューブからの栄養療法を行います。
代表的な再建・吻合方法を下図に示します。切除後の状態を考慮して最も適当と考えられる吻合方法を選択します。
胃管再建
結腸再建
手術に伴う危険性とその発生率
合併症とは、手術に伴い比較的早い時期に発症する患者さんにとって不利益な病状のことをいいます。後遺症とは、手術から回復した後に、比較的長い期間にわたって続く可能性のある病状で、傷あと、食道の機能の喪失、開胸・開腹手術に伴う癒着など、避けられないものもあり、上手につきあっていくことが大事です。
合併症のみられる割合は約30~50%で、合併症を起こすと、入院期間が長引くだけでなく、安静や絶食が必要になることや、ひとつの合併症がさらにその他の合併症を引き起こすこともあります。
致命的となること(約2%~10%)や、合併症が原因となり再手術が必要となること(約5%程度)もあるため、合併症を起こさないよう細心の注意をしていますが、発生を完全に防ぐことは困難です。