大動脈弁の手術

左心室と大動脈の間を隔てる弁です。
左心室から出た血液が全身に送られるために一方向に流れるように働いて、血液が左心室に逆流しないようにします。

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大動脈弁疾患の診断法

聴診、心電図、レントゲン、心臓超音波検査(心エコ-)、心臓カテーテル検査など。
大動脈弁疾患には主に“大動脈弁狭窄症”と“大動脈弁閉鎖不全症(逆流)”があります。

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大動脈弁狭窄症とは

大動脈弁が動脈硬化やリウマチ熱などの原因で固くなって弁口が狭くなる病気です。
大動脈弁口が狭くなると心臓を出る血液量が制限されて全身に充分血液を送れなくなります。重症になると心不全、失神、狭心痛などの症状が出ます。=症状が出ると年10%の突然死のリスクがあるといわれています。

また狭い弁を通して無理矢理血を送ろうとするので左心室の心筋が肥大して壁が厚くなります。=求心性肥厚心筋の変性が進むと弁を治しても元に戻らないことがありますので、手術を勧められたらあまり引き伸ばさないほうがよさそうです。

当院では石灰化の超音波破砕、上行大動脈とバルサルバ洞の石灰化に対する処置、冠動脈口石灰化に対する愛護的処理、大動脈低位切開による高性能の弁置換を通して、良好な成績を得ております。安心してお話を聞きにいらしてください。

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大動脈弁狭窄症の治療法

  • 薬物治療(コレステロールを下げる薬など):軽症に
  • 手術(大動脈弁置換術):心不全、失神、狭心痛のある方、大動脈弁圧格差が大きい方など

外科的手術を乗り切れる体力の評価に5メーター歩行を取り入れています。早歩きで5メートル歩くのに6秒未満の方は通常の外科手術をお勧めします。6秒以上かかる方は、通常の外科手術のリスクが5秒以下の方の2倍以上であることがわかりました。

そのような全身の弱っている方(freiltyと表現します)には胸骨正中切開を用いずに、カテーテルを用いて行う経皮的大動脈弁置換術がふさわしいので、現在適応と考えられる方は横浜市立大学市民総合医療センターにご紹介させていただいております。

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大動脈弁閉鎖不全症とは

大動脈弁がリウマチ熱、感染性心内膜炎、大動脈解離、先天性などの原因できちんと閉まらなくなって血が逆流する病気です。
大動脈弁が逆流すると穴が開いた柄杓で水をすくうようなもので心臓の効率が悪くなって心臓がくたびれてしまいます。=心不全
左心室に血液が逆流してあふれると左心室が拡大します。=左心室拡大

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大動脈弁逆流の治療法

薬物治療 (強心剤、利尿剤、血管拡張剤):軽症に
手術(大動脈弁置換術、大動脈弁形成術):重症に

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大動脈弁置換術の術中写真

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生体弁による置換術

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機械弁による置換

手術当日の流れ(平均的時間)

  1. (8:40)病棟を出発
  2. 手術室入室、麻酔をかける
  3. (10:00)執刀開始、胸骨正中切開
  4. 人工心肺の装着、運転開始
  5. 弁形成あるいは弁置換
  6. 人工心肺からの離脱、送脱血管の抜去、止血、閉創
  7. (16:00)手術終了
  8. (17:00)ICU入室
  9. (18:00)説明、ご面会

術後経過の流れ(平均的経過)

  1. ICU入室
  2. 覚醒、人工呼吸からの離脱、気管内挿管の抜去、飲水、食事
  3. ICUから病棟へ(2~5日目) 管(点滴、血抜きの管=ドレーン)を抜く 
  4. 歩行練習(5日目~)=リハビリテーション
  5. 心超音波検査、CT検査(7-10日目)
  6. 退院 (9-14日目):(合併症がある時は遅延します)
  7. 初回外来(術後3-4週)で経過良好なら社会復帰

人工弁の種類について

大動脈弁では形成のできる方は限られ、生体弁あるいは機械弁に置き換える人工弁置換術が一般的です。生体弁は牛の心膜から作られているので血栓はできにくく、血をサラサラにするワーファリンは3か月で止められますが、耐久性が弱点で10-15年で傷みます。

一方機械弁は丈夫ですが、ワーファリン(リンク)を生涯服用する必要があります。人工弁の種類は年齢によるお勧めもありますが、ご自分で選んでいただきます。

大動脈弁手術のリスクについて

いわば元気な体を取り返すために払う代償です。歯周病は術後の感染症の原因になりますので、抜歯を勧められた歯は抜いてください。
生命のリスク0.5-5%(年齢、病状により異なります)
合併症のリスク:出血、心不全、長期人工呼吸、脳合併症、感染、腎障害、弁の機能不全などがあります。

対象の診療科

  心臓血管外科

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