ドクターインタビュー

小児科医から感染症専門医、臨床検査専門医へ
3つの顔を持つスペシャリストが目指すもの

近年、医療現場では検査技術が向上し、病気の診断や治療方針の決定において大きな役割を果たしている。臨床検査専門医は院内の検査体制の構築からマネジメント、品質保証まで検査に関わること全てを取り仕切る臨床検査のスペシャリスト。小児科医、感染症内科医、臨床検査科医へとステップアップし、臨床検査科の診療科部長を務める清水博之医師に臨床検査科の役割と仕事にかける思いについて聞いた。

臨床検査のエキスパートによる診断サポート

現代医療において検査は大変重要な役割を果たしています。医療技術の進歩とともに検査の種類がどんどん増えて複雑になり、医師が患者さんの検査結果を正しく解釈するために常に最新の情報をアップデートすることが非常に難しくなっているのです。そうした中、患者さんの背景や臨床経過を加味しながら検査結果に付加価値をつけて医師に報告できるのが臨床検査科医です。検体を集めて検査結果を出すことに徹する検査技師と医師の橋渡しをし、主治医の先生の診断をサポートする役割を担っています。

以前から大規模な病院では臨床検査科を標榜するところがありましたが、近年、検査の重要性が増したことで、中規模な病院にも設置されるようになってきました。ただ臨床検査専門医が全国に700人弱しかいない中、当院のような中規模病院で常勤の専門医を配置しているところは珍しいと思います。

小児科医から感染症内科医、臨床検査科医へとレベルアップ

私の親が学校の先生だったので自分も子どもと関われる仕事がしたいと思っていました。医師になってからは一部の臓器ではなく全身を診ることができる小児科医として、小児の感染症を専門にやっていきたいと思いました。感染症は大人にも起きるため全年齢の感染症を網羅することで、小児科医としての知識が活かせると思い、一旦小児科を離れ、感染症の専門医を取得してしばらく感染症内科で診療していました。その後、感染症診療の中で検査は重要な位置を占めていましたので、感染症内科医としてさらにレベルアップしたいと思い、第三のステップとして臨床検査医学の勉強を始めたのがきっかけです。小児と感染症と臨床検査はそれぞれの知識がリンクし横断的につながっていますので、3つの専門を持つことで、より広く深い捉え方ができるようになったと実感しています。

前例のないPCR検査の体制をいち早く構築

2020年2月、ダイヤモンド・プリンセス号での新型コロナウイルス感染者の患者さんが当院に搬送されました。現在はPCR検査が主流になりましたが、当時PCR検査は特殊な検査で一般の市中病院では扱っていませんでした。私はこれを臨床検査科医の責務と考え、厚生労働省の手引きや海外のガイドラインを見ながら、院内で検査体制を構築しました。一言でPCR検査と言っても種類や手法がいろいろあります。検査にかかる時間、コスト、コロナ後の汎用性を考慮し、当院の実情に合った一番適した検査法を模索してきました。PCR検査の精度にも限界があり、検査するタイミングや検査対象者の背景によって結果の解釈が変わります。私は感染症内科医の経験から検査が陰性でもその患者さんの症状やバックグラウンド、CT画像を見て感染の可能性を否定せず、2日後の再検査で陽性だったケースもありました。臨床検査科医としてだけでなく、感染症内科医としてベースがあることで院内の患者さんを横断的に診ることができる立場にあり、院内の感染を未然に防ぐことができたと思っています。

感染症の検査に限らず、その他の検査の精度や品質を管理するのも臨床検査科の重要な仕事です。検査の数値が本当に正しい数値かどうか、あらかじめ数値がわかっている疑似検体を使って、正しい数値で出ているかどうかを定期的に測って確認しています。

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感染症のプロとしての全ての診療科への診療支援

当院は第二種感染症指定医療機関にも指定されており、多くの感染症患者の受け入れを行っています。感染症内科医が専門性の高い感染症治療を早いタイミングで行える環境が整っていることで安心安全な医療を提供できます。入院患者さんの不明熱についても、各診療科の主治医から「抗生物質は何がいいか」「治療期間はいつまでがいいか」といった相談を受けることが1日5〜10件ぐらいあります。感染症専門医がいない病院ではこのようなときに相談する先がなく、感染症診療支援の窓口として役割を果たしています。

また医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師、事務の方との多職種メンバーと一緒に、感染対策チーム(インフェクション・コントロール・チーム:ICT)や抗菌薬適正使用支援チーム(AST)を結成し、アウトブレイクの対応や感染対策予防策の教育、地域医療機関との連携等、感染に関わる様々な活動をしています。藤沢市内や周辺地域の医療機関から感染症や感染対策について相談を受けることもあり、感染症のことを正しく理解してもらうために、市民の方に向けて講演をするなど、地域への貢献も積極的に行っています。

大学病院はアカデミックな研究・教育機関ですが、感染症に関しては当院のような市中病院の方がむしろ症例が多く、診断や診療技術を日々磨いています。医師だけでなく、臨床検査技師にも積極的に学会発表や論文執筆を指導しており、学術的貢献もしています。私は横浜市立大学の医局に所属していますので、当院で患者さんを抱え込むのではなく、必要なときは検査や治療を大学や専門医療機関に依頼するなど、他の医療機関との連携も行っています。

コロナで培った検査ノウハウを生かしたい

今後、力を入れて取り組んでいきたいこととして、まだ新型コロナの真っ只中ですので、新型コロナの検査に関して、世の中の流行状況、社会情勢に合わせた当院にとってベストな検査体制や検査手法の構築を探り続けていきたいですね。さらに、新型コロナが収束した後には、冬はインフルエンザやノロの胃腸炎が流行り、夏は夏風邪が流行りというコロナ前の時代が戻ってくると思います。コロナで培った検査・手技のノウハウを活かしながら、感染対策に対するスタッフの意識をポストコロナでも継続できるように職員への教育もしっかり続けていきたいと思っています。

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検査結果に振り回されないよう納得いくまで訊く

検査というのは個人の健康状態を客観的に教えてくれるバロメーターです。自分の検査結果で分からないことや不安なことがあったら主治医やかかりつけ医に納得するまで尋ねて、安心して生活する、もしくは次のステップの治療に前向きに向き合っていけるように上手に検査を活用してほしいと思います。また症状がないのにやみくもに検査を行い、異常値が出たからと言ってすべて治療をしなくてはいけないものではありません。検査結果に異常があっても症状がない人に治療を行うことで体を害することもあります。くれぐれも検査結果に振り回されないようにしてほしいですね。検査の結果をどう受け止めるかを主治医の先生によく聞いていただきたいと思います。

キャリアパスとして「臨床検査専門医」を選択肢の一つに

臨床検査専門医はあまり知られていないため、まだ専門医の数は少ないのですが、検査技術は向上し、どんどん複雑になっていきますので、これからはますます注目度が高くなっていくと思います。私も小児科医から始めましたが、臨床医としてキャリアを築いた上で、次のステップとして臨床検査専門医に進みました。臨床検査専門医が、医師の多様な働き方の一つの選択肢としてあるということを医学生や研修医の方にぜひ知っていただきたいと思います。一つの診療科を究めることも大切ですが、私自身、全ての診療科の医師を横断的にサポートする臨床検査の仕事には臨床医とは違った面白さがあり、大変やりがいを感じています。特にワークライフバランスを重視している人にとっては自分のペースで働けるため、家庭と仕事の両立がしやすく長く続けていける仕事だと思います。

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