ドクターインタビュー

予防から高度な小児救急医療まで
家族に寄り添う小児医療を実践

神奈川県湘南東部医療圏の救急医療の中核として重要な役割を担っている藤沢市民病院救命救急センター。1998年救急に興味を持つ数名の医師により救急診療科チーム結成以来、人材確保、育成に尽力し、国内でもトップレベルの救命救急システムを構築してきた。小児救急医による24時間小児救急体制を成功させている数少ない自治体病院として注目度も高い。救命救急センター副センター長、小児救急科診療科部長 福島亮介医師に救急医療や小児医療の現状や思いを聞いた。

「安心してこどもを産み育てる街」藤沢市の小児医療改革

藤沢市は地方都市としては先駆けて、市内に夜間休日診療所を2箇所整備しましたが、どちらも診察が午後11時で終わってしまうことから、深夜も含む夜間帯の小児診療が求められていました。

「安心してこどもを生み育てる街づくり」という当時の藤沢市の重点政策を実現させるべく、当院でも小児救急医療の充実を図るため横浜市立大学の協力を得て小児科医を7人から11人に増員し、2002年から小児科医による24時間小児救急医療をスタートさせました。月に二人、夜間勤務者を決めてローテーションする交代制勤務(夜勤シフト制)を日本で初めて導入しました。それにより、日中勤務してそのまま夜間、翌日日中と連続して勤務する必要がなくなり、医師の負担が大幅に軽減しました。最近では研修医をはじめ小児科医を志す多くの若い医師が勉強目的で集まるようになりました。

重症のこどもを受け入れる

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2003年には全国で4番目に小児救急拠点病院に指定され、2006年には救命救急センターが設立しました。これにより藤沢市、茅ヶ崎市、寒川町の湘南東部医療圏だけでなく、鎌倉市や大和市、横浜市の南部からの救急搬送や受診患者さんが増え、開設当初6500人だった受け入れ数が大幅に増加しました。湘南東部地域には他に救命救急センターがないため、重症度の高い傷病者はほとんど当院で受け入れることが多いですね。

同年、一般小児科外来、疾患別の小児科専門外来、NICUを中心とした新生児医療といった分野をこども診療センターとして一つに集約し、小児救急はその一部門として、また湘南東部地域で子どもたちを受け入れる唯一の救命救急センターの一部門として診療を行なっています。2012年度に私が再度当院に着任してからは、通常の小児科では対応できない外傷診療や重症な子どもたちの集中治療管理を始めました。小児の救急や集中治療を専門とする医師は全国的にもかなり少なく、通常は市中病院ではなく、こども病院などの専門医療機関に勤務していることが多いです。当院のように市中病院でありながら、小児の救急や重症の子どもの集中治療を行なっている医療機関のニーズは高く、遠方から搬送される患者さんの数も増えています。

小児救急医や集中治療を行う医師が今後もっと増えていくに越したことはありませんが、ただ救急や集中治療をどこでもやればいいというわけではありません。特に集中治療に関しては専門性が高く、必要とする医療資器材なども特殊なものも多く、患者さんだけでなく人材や医療資器材を集約化する必要があります。神奈川県の場合、人口が多いので1箇所に集約することが難しく、集約できるほど大きな規模の施設もありません。現在はこども医療センター、聖マリアンナ医科大学、北里大学、当院などで各地域の重症な子どもたちを受け入れていて、適宜連携を取っています。

ドクターカーで1秒でも早く現場に駆けつける

2013年には当院の敷地内に救急隊員が常駐する藤沢市消防局の出張所「救急ワークステーション」が開設されました。緊急度の高い疾患や生命の危険性が高い重症外傷や多数の傷病者が発生した場合など、救急車に救急隊員と医師が同乗し現場に出動しています。ただその使用は藤沢市内から119番に電話が入った時に限定されていたため、2021年4月に当院でも独自でドクターカーを導入し、藤沢市以外の茅ヶ崎市や寒川町などの近隣地域にも出動できるようになりました。「搬送患者の受け入れを断らない」という当院のポリシーに加え、私たちとしては1秒でも早く患者さんのもとに駆けつけて治療を始めたいという強い思いがあります。ドクターカーに同乗して現場で処置を行う医師には救命救急の経験と高いスキルが必要とされるため、人材育成にも力を入れています。

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心配な時はいつでも受診してください

小児の救急医療受診者の9割以上が軽症であり、それによって医師の過重労働を引き起こしていると言われています。確かに重症の子どもは絶対数的には大人に比べれば少ないのですが、重症か軽症かは医療者が勝手に決めているのであって、熱や咳など何か心配な症状があれば夜間であろうと来てもらって構わないと思っています。何回か来てもらっているうちに、「こういう状況なら少し様子をみて大丈夫」とか「こういう状況だったら受診した方がいい」という、世間で言われている適正な受診が何かがわかってきます。「こんなことで来てすみません」と謝る親御さんもいらっしゃいますが、謝る必要なんてありません。お子さんを心配に思う気持ちは皆変わりません。当院の場合、電話で受診相談もできます。電話で軽症と判断した場合でも、できるだけ具体的なアドバイスとともに「少し様子を見ても大丈夫そうですよ。それでも心配だったらいつでも来てください」という言葉は絶対に伝えるようにしています。

治療以外で家族に寄り添う「こども家族支援チーム」

救急を受診する子どもたちには、階段を転がり落ちたり、誤飲や誤食など不慮の事故をきっかけに受診することが少なくありません。その多くの場合、周りにいる大人たちの意識を変えたり、環境を整えることで、予防できると思っています。そこで、医師、看護師とソーシャルワーカーの多職種からなる「こども家族支援チーム」を作り、再発防止のための活動に力を入れています。起きてしまったことは仕方ないけれど、起きないようにするにはどうしたらいいのか、親身になってご家族の相談にのり、みんなでアイデアを出し合って再発しないようにサポートしています。中には虐待の可能性が高いケースや放置しておけば、虐待に繋がることもあります。また、育児をする上で困っていることがあればチームで相談に乗り、必要に応じて行政サービス等を紹介し、担当者につなげています。

医師を志したきっかけはこどもたちの笑顔

私の父は産婦人科医でした。思春期の頃“親が医者だから、医者になる”と思われるのが嫌で、医師になろうと思ったことはありませんでした。ラグビーがやりたくて入った大学では理工学部の生体医工学分野で医療系の画像処理の研究をしていました。4年生の時に電車の中で見た海外青年協力隊隊員募集のポスターに写っていた笑顔の子どもたちの写真が強く記憶に残り、「自分も人を笑顔にする仕事がしたい!」と考えるようになりました。人を笑顔にできる仕事は沢山あるとは思いますが、それまであえて避けていた医学の道、医師になれば病気や怪我で苦しんでいる人たちを笑顔にできるのではないかと思ったのが医師を志したきっかけで、その後猛勉強の末、横浜市立大学の医学部に再入学しました。

医学部卒業後、国立東京医療センターで外科医を目指し外科の研修をしていたのですが、2ヶ月ほど国立成育医療センターで学べる機会があり、そこで小児の集中治療医や小児救急部門の存在を知りました。最初は救急医か外科医かどちらかで迷っていたのですが、子どもに関わって何でも診ることができる医者になりたいとも思っていました。小児科医は内科医なので、対象が子どもであっても一般的にはケガは診ることはありません。外科系の先生たちは子どもたちのケガを診てくれますが、子どもたちの扱いに慣れている訳でなく、診ることが負担になっている事も少なくありません。一方で、いわゆる救急医はすべての患者さんに対応します。自分はすべての子どもたちに対応できる医者になりたかったので「小児救急医」に辿り着きました。

当たり前のことができる医師の育成

小児救急医だからといって、特別なことをしているわけではありません。“こどものお医者さん”であればすべてのこどもたちに対応すべきだと思っています。特殊な疾患や専門的な治療を必要とする場合には、専門家に任せるとしても救急のファーストタッチは小児科医であれば誰でも行えるべきだと思っています。当センターでの研修は小児医療に関わることを予防医療から高度な集中治療まで一通り行います。小児科を志望して当院で研修する若い先生たちにとっては大変かもしれませんが、働きやすい環境と学べる環境を整備してきたことで、当院で学びたいという志の高い医師が集まってきています。