最良の画像診断をすべての患者さんへ
最先端の技術で高度な医療を支える
1970年代にX線CT装置が開発されて以来、画像診断技術は目覚ましい進歩を遂げ、病気の診断を行うためには安全で精度の高い画像診断は不可欠となった。藤沢市民病院では50年前の開院当初より放射線科を設置、常に最先端の画像診断技術と向き合い続けてきた。院内での質の高い画像診断を可能にするために現在も人材確保や体制づくりを強化している。放射線診断科 診療科部長 藤井佳美医師に画像診断にかける思いについて聞いた。
日本初の心臓移植に衝撃、医学の世界へ
私は大学を卒業して3年間、大阪のテレビ局で報道記者として働いていました。1999年に大阪大学で行われた日本初の心臓移植の現場を取材した際に、医療技術が患者さんに恩恵をもたらす様子に衝撃を受けました。それ以来、医療への強い関心は消えることがなく、医学部に入り直して、医師への道に進んだのです。研修医時代に画像診断という専門分野があることを知りました。画像診断では、CTやMRIなどの画像を分析し、所見を組み合わせて論理的に病気の診断を行います。論理を構築するプロセスに魅力を感じ、のめり込んでいきました。画像診断は日進月歩で、将来性のある分野だと感じ、放射線科を専門に選びました。
開院当初から最先端の画像技術に注力
1972年にイギリスでX線CT装置(X線コンピュータ断層撮影装置)が開発され、画像診断は大きく進歩しました。日本では1975年に大学病院に初めてCT装置が導入されました。藤沢市民病院では1971年の開院当初から放射線科が設置され、公立の病院の中では全国に先駆けてCT装置を導入し画像診断に力を注いできました。現在もCT、MRI、PET/CTなど最新の撮影装置が導入され、患者さんによりよい医療を提供するための基盤となっています。
主治医との良好なコミュニケーションが診断の精度を高める
院内で行われた画像検査は放射線診断専門医が読影(どくえい:画像を解析し、病気の診断すること)を行い、画像診断報告書を作成しています。主治医は画像診断の結果とその他の検査結果とあわせて患者さんの病状を評価し、治療方針を決めます。画像診断を行う医師は患者さんと直接顔を合わせる機会は少ないですが、病院の中央部門として医療の質を支えています。
藤沢市民病院では常勤の放射線診断医5名と非常勤の放射線診断医により、院内のCT、MRI、PET/CT、核医学検査、単純X線撮影などの読影を行っています。各診療科の医師とは日頃から密に連携し、関係を構築することを心がけています。お互いに疑問点を確認し、議論することで、画像診断の精度は上がります。よりよいコミュニケーションが患者さんに最適な治療を提供するためのカギになると考えています。
遠隔システムにより自宅で24時間、読影が可能に
藤沢市民病院では2014年から遠隔読影システムを導入しました。これにより救命救急センターからのオンコール(電話連絡)を受けて、休日や夜間の緊急の画像診断を自宅で行うことができるようになりました。昼夜を問わず救急患者さんが搬送される状況で、撮影された画像をじっくり評価することはかなり難しいと思います。放射線診断医が画像診断を行うことで、救急医は患者さんの診察や処置に集中でき、迅速な救急診療が可能になっていると信じています。
現在では新型コロナウイルス感染症対策として、読影室の密を避けるために、非常勤医師も在宅での読影を行っています。育児や介護中の医師でも自分のペースで働ける画期的なシステムなので、今後も活用していきたいと考えています。
人間をサポートしてくれるAI(人工知能)技術に期待
画像診断が目覚ましい進歩を遂げる一方で、画像データの量は膨大となっています。人間の目だけで診断を行うことは限界に近いと感じています。画像診断の分野では近年、AI(人工知能)を活用した診断が話題となっています。当院でも2021年からAIによる読影支援システムの運用が始まりました。AIはまだまだ発展途上ですが、現時点でも異常所見をピックアップする能力は非常に高いと思います。AI技術が発達すると放射線診断科医が不要になるという見方もありますが、AIによる診断の正誤を最終的に判断するためには専門的な知識が必要です。AIは放射線診断医の読影をサポートしてくれる心強い存在だと私は考えています。
最良の画像診断をすべての患者さんへ
画像診断は科学技術の発展と共に進歩してきました。コンピュータやデジタル、AIといった言葉と相性がよく、医療の現場としては、何となく冷たいイメージをもたれる方もいらっしゃるかもしれません。しかし実際は検査前から撮影終了まで、患者さんが安心して検査を受けられるよう看護師、放射線技師など多くのスタッフが関わっています。画像の解釈が難しいケースでは、一つのモニターの前に放射線診断医が集まり、診断について何度も議論を重ねています。将来、AIが進化してもこのような光景が消えることはないでしょう。画像を活用しながら、放射線診断医がカテーテルを用いてがんの治療などを行うIVR(アイブイアール・画像下治療)とよばれる技術も広がってきています。IVRは患者さんの体に負担の少ない低侵襲な治療で、今後ますます需要が大きくなると思われます。
先端技術を活用するのは人間です。そのため「人」を育てることの大切さを感じています。病気や怪我で苦しむ患者さん一人一人の人生を想像できる感性を養い、最善を尽くすこと、すべての患者さんに最良の画像診断を届けること、これが私たち放射線診断科医の使命だと考えています。